読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

本とのこと

本と映画と音楽の話。

【読書感想・評価】小説「七つの会議」を読んで仕事について見つめ直そう

f:id:ryumachi3:20161107155614j:image

池井戸潤さんの小説を読んでみたかった。半沢直樹や下町ロケットが話題になっていたのにどっちの本もドラマも見ていなかったから。置いていかれた気がして。そんなことを考えているときに本屋に平積みされていたのが「七つの会議」いう小説だった。とても濃厚な、働く人の物語。

感想はまるでドラマを見ているように映像が浮かんできて物語に引き込まれる作品だった。読んだ人達の評価もとても高くて読み終わった後の自分もとても興奮していた。働いている全ての人に見てほしい。

七つの会議のあらすじ

 大手総合電機メーカー ソニックの子会社である東京建電。特に目立った才能もなく生きてきた二課の課長 原島万二。誰にでも好かれて仕事ができる一課の課長 坂戸宣彦。その部下で坂戸より一回り年上だが勤務態度が悪く会議では居眠りばかりしている万年係長の八角民生。ある日、坂戸が社内のパワハラ委員会に訴えられた。訴えたのは八角であった。委員会が下したのは坂戸を一課長から人事部付にするという重い処分だった。社内が騒然となった異例の処分に疑問を持った原島であったが、坂戸の穴を埋めるために”地獄の二課”から”花の一課”の課長になった。それから間も無く原島は部下となった八角からこの不自然な人事の裏側を聞く。そこに隠されたのは会社という組織の醜悪な舞台裏に他ならなかった。原島は打ちひしがれていた...

東京建電に隠された秘密に迫る8つの短編で構成された長編小説。

7つの会議のよかったところ

「仕事とは」について考えさせられる

物語には中堅企業の東京建電に勤める役員、部長、課長、係長、社員、営業、経理から親会社ソニックの上層部、下請けの工場、個人経営のパン屋...色々な立場の人々の目線から「仕事」や「働き方」や「会社での生き方」について考えることができる。

登場人物達の行動のバックグラウンドがしっかり見える

この小説は全8話からなり主人公がそれぞれ違う。この小説の素晴らしいところは、登場人物達が会社でなぜそのような立場になったのか、会社でなぜそのような行動を起こしたのか、の元となるバックグラウンドがしっかり描かれていることだ。主人公達が幼少期から会社に入るまでどうやって育ったかということや、結婚してからの夫婦の関係、家庭内の様子までしっかりと描かれているので各主人公達の行動に納得がいく。人間の行動や判断の基準って今まで生きてきた環境によって形成させれるんだなあと再認識させられる。

自分から見た自分と他人から見た自分は全然違う

この小説でもう1つよかったのは、ある主人公の目線で物語が進んでいき、上に書いたようなバックグラウンドも理解すると、そいつが嫌なやつでもちょっとずつ親近感が湧いてくる自分がいる。しかし、そいつの話が終わって次の別の主人公の話に移ると、他人から見た前の主人公の行動の見え方や評価が全然違ってガラッと変わったりする。そこがおもしろかった。
これは何年も前に伊坂幸太郎さんの「ラッシュライフ」を読んだ時と同じ感想なんだけど、人生は自分だけが主人公じゃなくて、世の中にいる人達一人一人に物語があってそれぞれが主人公として生きているんだなということを考えさせられた。

ちゃんとミステリー

仕事や働くことについて描きながらもちゃんと会社に隠された秘密にじわじわと近づいていくミステリーとしてのわくわく感もあるのがすごい。こんなタイプのミステリーを読むのは初めての体験でとても新鮮だった。

七つの会議の中で一番好きだった話

重い話の中でも第三話「コトブキ退社」という話だけはとりわけ軽やかでわくわくさせてくれた。特に目的もなく勤めていた会社を辞めることになった浜本優衣。辞めるまで残り一ヶ月となると、自分が会社に居た意味ってなんだろう、自分が会社に居た証を残したいと考えるようになった。一念発起して思いついたのは「会社にドーナツを置こう」というアイデア。ぎすぎすして残業時に空腹でもなかなか外に食べに行くこともできない雰囲気の会社のみんなのために、無人販売のドーナツを置こうと提案する。お堅い上層部の説得と無人販売に協力してくれる店探しという2つの課題に立ち向かうことになる。今まで何の目標も無かった社員が自分で目標を見つけてそれに向かってコストや利益などのビジネスの基本を学びながら奮闘していく姿がとてもきらきらしていて読んでいる間中胸が高鳴った。物語中に月九のドラマを見ているような展開も出てきてそこもまた楽しい。ドラマで見たい。

七つの会議の中で一番印象に残った言葉

「仕事っちゅうのは金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔を見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ金は後からついてくる。客を大事にせん商売は滅びる。」

第七話「御前会議」p.356

これは第七話「御前会議」の主人公 村西が大学生の時に広島の片田舎で小さな会社を営む父親から言われた言葉だ。会社で「顧客第一」とうるさく言われても疎ましいだけだけれど物語の中でこんな風に語りかけられると胸に響くものがあった。毎日しんどい仕事をこなしていると忘れがちだけれど仕事の本質だと思う。村西の会社での行動や考え方は常に父親のこの言葉が規範となっている。一貫したポリシーを持っている人の姿は本当にかっこいいし、強い。

まとめ:仕事とは人生

この物語をおもしろく読み進めながらも、自分も企業に長く勤めている人間として、今後の会社での身の振り方や働き方について想いを募らせることになった。特に上で引用した村西の父親のセリフは読み終わった後もずっと心に残っていて、自分がこれから働いていく上での信念になりそうだ。仕事って人生のほとんどの時間を費やすもの。だから、人の仕事のやり方や、働き方にはその人がこれまで生きてきた人生の過程が反映される。
この本は会社の上司にムカついている人、会社の部下の気持ちがわからない人、働く意義がわからなくなってきた人、などにおすすめ。登場人物の生き方や働き方に想いを巡らせながら自分の「仕事」について見つめなおしてみてはいかがだろうか。