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本とのこと

本と映画と音楽の話。

村田沙耶香「コンビニ人間」の狂気【読書レビュー・感想・評価】

僕は小説を読むといえばほとんどが文庫本で、単行本を買うことがない。かたくなに。

単行本って文庫本の3倍ぐらいの値段するし、読むとき重いし、置き場所にも困るしなるべく避けていた。だから毎年芥川賞受賞作や本屋大賞受賞作が発表されても「読みたいなぁ」と思うだけで読むのは結局文庫本になってから。聴きたいCDはレンタルされるまでの半月程度が待てずに買っちゃう割に、本については文庫化されるまでの2年程度を気長に待てるから不思議だ。

「コンビニ人間」を読んだ理由

だけどアメトーークの「本屋で読書芸人」で読書芸人4人中3人の又吉さん、光浦さん、若林さんが今年読んだおすすめの5冊の中の1冊としてこの本が紹介されていて、その3人+池田エライザさんが「読んだ人によって結末の感じ方が別れる」「どっちだった?」と言って楽しそうに話していたのを見て「さすがにこれは単行本でも読みたい」と本屋のレジに走った。

「コンビニ人間」のあらすじ

36歳未婚。今まで彼氏なし。18年間同じコンビニで働き続けている主人公の古倉恵子。幼少期から人と違うところがあり周りから奇妙な目で見られていた恵子であったが、コンビニ店員として働き始めてからはコンビニだけが居心地のいい場所となっていた。そんなある日、白羽という変わった男がアルバイトとしてやってきた——

「コンビニ人間」の感想・よかったところ

というわけで本好きの人たちからの評価が非常に高いこの本についてネタバレなしで感想を書いてみます。

著者・村田沙耶香さん自身がおもしろい

僕はこの本を読むまで著者の村田沙耶香さんについて「コンビニで働きながら『コンビニ人間』という本を書いたら芥川賞を受賞した人」ぐらいの情報(イメージ)しか持っていなかった。

だから冒頭のコンビニで働く主人公の恵子から見た店内の景色とか、幼少期に周りから奇妙な目で見られていたエピソードとかを読んでいる段階では「この主人公の恵子ってもしかして作者自身?自伝小説?」と思ったんだけど読み進めていくうちに「なわけないか」という考えに変わった。主人公がこれはなんでも変わり者すぎるというのと、この主人公がこの小説を書いたとしたら現代社会に漂う(作中では縄文時代からと言っているが)あの窮屈な空気感や、「普通の人達」が「異物」を見る様子をこんなにもリアルに描けるはずがないと思ったからだ。これを書けるのは「異物」を見るあの視点を「知っている側の人間だ」と。

読み終わったあとで著者の村田沙耶香さんのことが気になりすぎて調べてみるとその結論は半分当たっていて半分はずれていた。

本を読む前は「この本はコンビニで働きつつ初めて書いた本で、初めて書いた本で芥川賞を受賞したのかな?」と思っていたんだけど、これまでに何作も小説を執筆して何個も賞を受賞しているすごい作家さんだった。

ただ、芥川賞の受賞式で「コンビニは、不器用だった自分が初めてまともにやることができた場所。聖域です。」と言っていたらしくやっぱり主人公の恵子は作者自身でもあるんだなあと思った。

長年コンビニ店員をやっていないと絶対に描けない描写

まず冒頭の主人公・恵子から見たコンビニ店内の景色と音が丁寧で細かすぎて序盤からぐいぐいと本の世界(というかコンビニの店内)に引き込まれた。

あとコンビニの店員さんってやることが多くて大変そうだなとは思っていたけど、この本の中の描写を読むとこんなにも膨大な情報を処理して瞬時に判断して行動しているのか...と唖然とした。まるで高速でプログラムを処理しながら動くロボットみたいだ。自分には無理だと思った。本当にすごい。

主人公が人間を見る(観察する)視点がおもしろい

主人公の恵子は普通の人ではない。周りの人間を見るときの視点が独特だ。人間を客観視どころかただの生き物(もしくは物)として観察したような表現がおもしろくて新しかった。

アルバイトをしていた時の空気感を思い出した

この作品ではコンビニのアルバイト同士の関係もリアルに描かれている。会話の内容は仕事の内容が中心であまり踏み込んだお互いの話はしないあの独特の距離感であるとか、バラバラの服装だったアルバイト達が店の制服を着ると急にみんながそこの店員らしく見える感じとか。自分も学生時代にケンタッキーでアルバイトしていたのでその時のことが思い出されて懐かしかった。アルバイトを経験した人ならコンビニ店員以外の人が読んでも共有できる部分が多いと思う。

女性にしか書けない女性dis描写

白羽という登場人物がとにかく30歳を超えた未婚女性のことをめためたにdisってくる。何年か前に問題となった倖田來未の発言どころの話ではない。これって女性作家が男の登場人物の口を借りて喋っているからこそ許されるんだよなあ。これを男性作家がやったら、もしくは芸能人がインターネットやラジオで発言したとしたらどれだけ世間から批難されることか。きっと業界から追放される。女性作家って最強だなー小説って自由だなーと思った。

そういえば自分が今まで読んできた小説の中で女性が書いた本って湊かなえさんのものぐらいしか思いつかない。これを機に他の女性作家さんの本も読んでみたくなった。男とは視点が違う。

白羽が残念すぎてやばい

登場人物の白羽という男が残念すぎてやばい。こいつに比べたら「何者」に出てくる隆良が何百倍もまともな奴に思えてくる。意識が高すぎる故に就職もできず、手も足も動かさずに過ごした男の末路みたいなキャラクター。僕は「起業したい」と言っている人って夢があってきらきらしていて応援したくなるタイプなんだけど、さすがにこいつを見ると起業したい人に「やめとけ」という人の気持ちもわかってきた。

読んでいるうちに主人公の感情が自分に乗り移ってくる

普通の人には到底理解できそうもない変わり者の主人公・恵子の気持ちが、読み進めていくうちに不思議と乗り移ってくる。正常に動き続けていたコンビニがだんだんと変化していってしまったときの恵子の気持ちが理解できて切なくなった。

もはやホラー小説

妹とが恵子のアパートを訪れた時の場面。恵子からのあの説明を聞いた時のあのシーンは妹の気持ちになると恐ろしすぎてゾッとした。もはやホラーだった。この小説のラストも僕はホラーだと思った。

まとめ:読んだら最後。作家・村田沙耶香が気になって仕方がなくなる

「コンビニ人間」という一見かわいらしいタイトルから軽い気持ちでこの本を読むときっと痛い目を見る(自分です)。この本に潜む狂気に触れた瞬間、あなたはきっと著者の虜になってしまうでしょう(自分です)。村田沙耶香さん。やばい作家さんを好きになってしまった...。

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