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「グローバライズ」木下古栗はたぶんアート【感想・書評・レビュー】

アメトーークの「本屋で読書芸人」で光浦靖子さんが読書芸人大賞2016として推薦した本。

光浦さんが「最後の一行、二行で、どぅぇーって全部がひっくり返される。どぅぇーって。」と語っていて、ずっと気になっていた。

昨年そのアメトーークが放送されてほどなくして本屋に行ったときにこの本を探したんだけど置いてなかった。今年の正月休みにTSUTAYAに行ったときにこの本が平積みされていたのを偶然見つけた。そこまでがんばって探していたわけではなかったんだけど「やっと見つけた」感が強かったのと装丁がおしゃれでオレンジ色の文字のデザインが気に入ったこともあり即購入してしまった。

小説「グローバライズ」 とは

小説家・木下古栗の短編小説集。河出書房新社から2016年3月に発刊された。文庫化はされていない(2017年1月時点)。

もともとは「文藝」の「十年後のこと」という企画で原稿用紙5枚の掌編小説(短編よりさらに短い小説)を依頼されたことがきっかけ。掌編小説集を一冊書くことになったが掌編では枚数が足りないと感じ、短編集の形となった。

タイトルの「グローバライズ」は海外との関係や外国人も出てきたりしたので最後の12話目のタイトルからとった。

以下12の短編が収録されている。

  • 天然温泉やすらぎの里
  • 理系の女
  • フランス人
  • 反戦の日
  • 苦情
  • 夜明け
  • 専門性
  • 若い力
  • 観光
  • globarise

12編にしたのは地球が12ヶ月で太陽の周りを一周するのに対応させたかったから。

著者・木下古栗とは

男性。1981年生まれ。埼玉県出身の小説家。

2006年に「無限のしもべ」で第49回群像新人文学賞を受賞。

小説「グローバライズ」各話ごとのざっくりした感想

グローバライズの各話ごとの感想をネタバレしない程度にざっくり書きます。

天然温泉 やすらぎの里

まず天然温泉やすらぎの里を読み始める。なんか妙に人物描写が生々しいな。読み進めて噂のラストの1行、2行を読む。

「???どういうこと?」

わけがわからなかったのでぱらぱら2〜3ページ戻って読み直す。もう一度ラストの1行、2行を読む。

「????」

理系の女

意識の高そうな女性と意識の高そうな学生の会話。

うわ、なんかエグい展開になってきた。

最後の1行を読む。

お前、そっちか!

フランス人

前半〜中盤楽しく読む。

ジェローム???は??え??

反戦の日

アクの強そうなおじさん。後半の文章のナンセンスさに困惑する。なんなんだこの作者は。

苦情

最後まじで。やっぱ作者やばい人だこれ。光浦さんよくこれアメトーークで紹介したな。

夜明け

ジェロームおい!

専門性

これってもしかして...。

やっぱり。作者まじか。

若い力

この話だけやけに大人しい。どういう意図なのか気になる。でも団体名おい!

漢字だけなのをいいことにやりたい放題。ひどい。これを読んだ以降「伊勢丹」という単語が卑猥に見えてくる。

観光

最後かっこいい。こんな紙の使い方あるのか。小説っておもしろい。あれだな。この人小説家というよりアートの人だ。

小林えええ。最後えええ。

globarise

「アニメみたいだ...」

なんなんだこの作者。自由すぎる。

小説「グローバライズ」の感想・書評

丁寧すぎるほど丁寧な人物描写

まず、1つ目のお話「天然温泉 やすらぎの里」を読んでいて思ったのが人物描写がものすごく細かく生々しく書かれているなーってこと。登場人物の会話や格好(見た目)からその人物がどういう人物なのかがじわじわと見えてくる。

急すぎる超展開

各話とも前半は細かく丁寧に描写を並べていたのに中盤または後半で作者が急にちゃぶ台をひっくり返して暴れだす。今までおれが読んでつかんできた設定と人物像はなんだったんや!ってなる。

文章のナンセンスさ・不道徳さに困惑

「ナンセンスな」「不道徳な」みたいな形容詞がぴったりの文章のシャワーをこれでもかと浴びせられる。困惑するしかない。

短いから読める

どの話も読むのきついんだけどいい感じの長さの短編だからわりとサクサク読める。これが長編小説だったら絶対途中で読むのを断念していた。

なぜか続きが気になる

フランス人、反戦の日あたりで「おれは何を読んでいるんだろう」「この小説全部読む意味あるんかな」という気持ちになって読むのを断念したくなる。でも「次はどんな風に暴れるんだろう」って次の話も気になって結局全部の話を読んでしまう。

すべての意識高い系読書人を挑発

この本、伏線の回収命のミステリー好きが読んだら怒って投げ捨てるんじゃないか。

帯に「すべての「意識高い系」読書人を挑発し嘲弄する、 この上なくドイヒーでサイコーな文学がここに!!! 」って佐々木敦さんのコメントが書いてあったけど意識高い系読書人って「ハルキスト」みたいな人のことだろうか。

でもこの本が「村上春樹さんがヤケになって大暴走して書いた本」って言われたら信じるかもしれない。ハルキストの人がこの本を読んだらどういう感想を持つのか気になってきた。

アートか

読み進めていくうちにだんだんとこれはただの小説ではない、どっちかというとアートだ。みたいな気持ちになってくる。

著者・木下古栗さんのことが気になる

この本を読むとこの著者絶対やばい人や。いつか絶対捕まる。とか思ったんだけど読んだ後に見つけた下のインタビューを読むと実はとてもまともそうな人でびっくりした。年齢も30代半ばで意外と若い。

全く意味のなさそうな「グローバライズ」の各話や細かすぎる描写もいろいろな考えや計算があった上で書かれたということがわかっておもしろかった。

「グローバライズ」を読み終わった人はぜひこのインタビュー記事も読んでみてください↓

bookshorts.jp

まとめ:文学とは...

この本を読み終わってひとり「読書とは...文学とは...」とつぶやいていた。

映画でも漫画でも実現できなさそうなことでも文字だけならできてしまうから文学ってすごい。文学って自由すぎる。

こんな玄人好みの作品がTSUTAYAに平積みされて一般人(自分)に売れてしまうんだからアメトーークの力ってすごい。

素人が間違えて踏み入れてはいけない危険な作品に手を出してしまったみたいなそんな感じ。オレンジ文字のかわいいおしゃれな表紙に騙されて手を出すと大火傷します(というかウンコ投げつけられます)。

だけど読んだ後1日経ってから「おれは何かものすごい作品を読んだのかもしれない...」というよくわからない変な満足感が湧いてきた。