アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない
P28 既存の要素を組み合わせること
蔦屋書店を歩いていたらずっと読んでみたかった本を偶然見つけた。「アイデアのつくり方」。何年か前に読んだ「Webサービスのつくり方」というWebサービスづくりに関する33のエッセイが載っているおもしろい本に、ジェームス・W・ヤングの上の文章が引用されていた。それからずっと頭の中に残っていた。
手にとってみるとめっちゃ薄い。そして小さくてかわいい。価格も800円程度とお手頃。帯には"60分で読めるけれど一生あなたを離さない本"の謳い文句。なんて所有欲をくすぐる本なんだろう。買わない手はなかった。
著者 ジェームス・W・ヤングとは
著者のジェームス・ウェブ・ヤングは、アメリカ最大の広告代理店J・ウォルター・トムプソンの副社長を務めた人物。この本はシカゴ大学のビジネス・スクールで広告を専攻する大学院の学生達に講義し、後日二、三の、広告界で活躍している実務家の集まりで話したものをまとめたものである。
アイデアのつくり方の2つの原理
アイデア作成には基礎となる2つの大切な原理があるそう。
一つ目。
即ち、アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもないということである。
P28 既存の要素を組み合わせること
二つ目。
既存の要素を新しい一つの組み合わせに導く才能は、事物の関連性をみつけ出す才能に依存するところが大きいということである。
P28 既存の要素を組み合わせること
アイデアのつくり方は車のつくり方と同じ
アイデアのつくり方はまるで車をつくるように具体的な一定の手順があるらしい。
先にも言ったように私がここで主張したい点は、アイデアの作成に当って私たちの心は例えばフォードの車が製造される方法と全く同じ一定の明確な方法に従うものだということである。
P32 アイデアは新しい組み合わせである
アイデアのつくり方は5つの段階を踏む
アイデアの作り方には5つの手順を踏むらしい。1つずつ手順を紹介していく。
第一段階:資料を収集する
まずは資料を集めること。
五つの中の第一の段階は資料を収集することである。
P33 アイデアは新しい組み合わせである
この「資料」には2つの種類がある。
集めてこなければならない資料には二種類ある。特殊資料と一般的資料である。
P34 アイデアは新しい組み合わせである
特殊資料とは。
広告で特殊資料というのは、製品と、それを諸君が売りたいと想定する人々についての資料である。
P34 アイデアは新しい組み合わせである
つまり、アイデアをつくりたい対象にがっつり関係する資料のことである。
一般的資料とは。一般的資料の説明として、すぐれた創造的広告マンの2つの特徴を語ってくれている。
第一は、例えばエジプトの埋葬習慣からモダン・アートに至るまで、彼らが容易に興味を感じることのできないテーマはこの太陽の下には一つも存在しないということ。人生のすべての面が彼らには魅力的なのである。第二に彼らはあらゆる方面のどんな知識でもむさぼり食う人間であったこと。広告マンはその点、牛と同じである。食べなければミルクは出ない。
P38 アイデアは新しい組み合わせである
つまり、アイデアをつくりたい対象にぜんぜん関係のない資料のことである。優れた広告マンを牛に例えているのがおもしろい。
そしてここからは全部を書き留めておきたいぐらい大切でぐっとくる文章が続く。
広告のアイデアは、製品と消費者に関する特殊知識と、人生とこの世の種々様々な出来事についての一般的知識との新しい組み合わせから生まれてくるものなのである。
P38 アイデアは新しい組み合わせである
アイデアのつくり方は万華鏡に似ていると語る。
広告のためのーあるいは、ほかのどんなーアイデアの作成もこれと同じことである。一つの広告を構成するということはつまり私たちが住んでいるこの万華鏡的世界に一つの新しいパターンを構成するということである。このパターン製造機である心の中に貯えられる世界の要素が多くなればなるほど、新しい目のさめるような組み合わせ、即ちアイデアが生まれるチャンスもそれだけ多くなる。大学の一般的教養科目の実用的な価値に疑問をいだいている広告科の学生諸君はこの辺のことをとくと考えて頂きたい。
P39-40 アイデアは新しい組み合わせである
第二段階:収集した資料を咀嚼(そしゃく)する
第二段階は、第一段階で収集した資料を咀嚼すること。
次に諸君の心が通り抜けねばならない段階は何か。それは、これらの資料を咀嚼する段階である。ちょうど諸君が消化しようとする食物をまず咀嚼するように。
P43 心の消化過程
と言われてもどうすればいいのかよくわからない。
諸君がここでやることは集めてきた個々の資料をそれぞれ手にとって心の触角とでもいうべきもので一つ一つ触ってみることである。一つの事実をとりあげてみる。それをあっちに向けてみたりこっちに向けてみたり、違った光のもとで眺めてみたりしてその意味を探し求める。また、二つの事実を一緒に並べてみてどうすればこの二つが噛み合うかを調べる。
P43-44 心の消化過程
うーん、わかったようなわからないような。
諸君がこの段階を通りぬける時、次のような二つのことが起こる。まずちょっとした、仮の、あるいは部分的なアイデアが諸君を訪れてくる。それらを紙に記入しておくことである。どんなにとっぴに、あるいは不完全なものに思えても一切気に止めないで書きとめておきたまえ。これはこれから生まれてくる本当のアイデアの前兆なのであり、それらを言葉に書き表しておくことによってアイデアの作成過程が前進する。
P45 心の消化過程
なるほど不完全なひらめきを紙に書きとめておけばいいわけだ。これならできそう。
第三段階:問題を心の外にほうり出す
第三段階は、第一段階から第二段階にかけて一生懸命考えていた問題を一旦放棄すること。
この第三の段階にやってくれば諸君はもはや直接的になんの努力もしないことになる。諸君は問題を全く放棄する。そしてできるだけ完全にこの問題を心の外に放りだしてしまうことである。
P47 心の消化過程
なんの努力もしなくていいらしい。
この段階において問題を意識の外に移し諸君が眠っている間にそれが勝手にはたらくのにまかせておくということのようである。
P47 心の消化過程
なんというボーナスステージ。
この後シャーロック・ホームズが一つの事件の最中に捜査を中止し、融通のきかないワトソンを音楽会にひっぱりだした例に触れる。
アイデア作成の第三段階に達したら、問題を完全に放棄して何でもいいから自分の想像力や感情を刺激するものに諸君の心を移すこと。音楽を聴いたり、劇場や映画に出かけたり、詩や探偵小説を読んだりすることである。
P48 心の消化過程
本を読んだり、映画を読んだり、音楽を聴いたりすることって、アイデアのつくり方の大切な過程の一つだったんだ!
第四段階、第五段階
この後の第四段階、第五段階も紹介したいところだけどめちゃくちゃ良い本なのでこの続きは実際に本を読んでからのお楽しみ...
アイデアのつくり方の感想
この本を読んで驚いた。「アイデアのつくり方」という抽象的なタイトルなのにそれが(最近よくあるビジネス書のような)釣りタイトルではなく、5つの段階に分けられた驚くほど実践的で具体的な手順が書かれていたからだ。この薄くて小さい本にはアイデアのつくり方について"必要なことだけ"が書かれている。だから薄い。
この本は誰もがその必要性に疑問を抱く一般教養だって、ただ自分が楽しいから続けているような(他人から見たら意味がないように見えるような)趣味だって、全てがアイデアを作るために必要な材料であり、必要な過程であると全肯定してくれている。
雷に打たれた気分だった。
僕は中学生の頃、もうこれ以上意味のない(と思っていた)一般教科を勉強するよりも就職してから役に立つ専門分野を勉強したいと思った。だから進学校から大学ヘ行くという道は選ばなかった。だから高専に行った。
高専を卒業して、システムエンジニアとして就職した後は、自分の時間はなるべく、仕事に役立つ資格勉強の時間や、仕事で使うプログラミングやデータベースに関する本を読む時間にあてたいと考えていた。それ以外の知識はただの娯楽、ただの息抜き、仕事には関係のない意味のないことだと考えていた。
このブログだってそうだった。文章を書く練習や息抜きにはなると思っていたけど、書いている内容は本や、映画や、音楽のこと。仕事の役に立つなんて思っていなかった。
でも違った。全てはアイデアを作るために必要なことだった。
そうなんだ。
例えばある二人のプログラマーがいたとする。一人目はプログラミングの本しか読まないプログラマー。二人目は森羅万象いろんなことに興味があって、いろんな本を読んで、いろんな映画を知っていて、いろんな音楽を知っているプログラマー。この二人のどちらがおもしろいアイデアのプログラムを作れるかといったら言わずもがなだ。狭い範囲の知識しか吸収しない人間は狭い範囲でのアイデアしかひらめかない。
この記事でも語っている、たくさんの「文化的ひきだし」を持っている人にはやっぱりかなわない。
まとめ:このブログの目的が見つかった
この本を読んで今書いているこのブログの目的が見つかった。このブログはみんながアイデアを作る過程の第三段階になってほしい。問題を完全に放棄して何でもいいから自分の想像力や感情を刺激する存在になってほしい。それがこのサイトの目的って決めた。
この本を読んでからすぐに、ずっと書こうと思っていた「このサイトについて」のページを作った。
(我ながらエモい文章を書いてしまった。)
アイデアのつくり方の本を読んでこんな具合で早速アイデアが湧いてきた。この本は一生大切に持って何回も読み返すことになると思う。"60分で読めるけれど一生あなたを離さない本"というキャッチコピーは嘘じゃなかった。