「星野源ってなんか嫌いだわー」
耳を疑った。
いつだったか実家に帰ったときに母が言っていた。なんとなく好きじゃないらしい。
てっきりいま世の中の女性全員が星野源を好きなんじゃないかと錯覚していた。
だって曲を作れて楽器を弾けて歌を歌えて、踊れて、演技もできて、さらに文章まで書ける。こんな素敵な大人はなかなかいないぞと思う。かっこいい大人って正にこういう人。
さらに今流行りの塩顔ときた。これはモテる。
星野源のことを嫌いだった理由
でもそういえば昔は(といってもつい最近)僕も星野源さんのことなんとなく好きじゃなかった。
サカナクションの一郎さんやMUSICAの鹿野さんと仲がいいみたいなのでへーと思って3年前ぐらいにStrangerというアルバムをTSUTAYAで視聴してみたけどしっくりこなかった。だからその日からずっと星野源さんの曲は「自分には合わない」と思ってスルーしてきた。
2年前ぐらいにこの「働く男」の文庫本が書店に並び始めた頃も気に食わなかった。いかにも女性ファンを狙ったあざとい眼鏡と手に持った文庫本がいけすかなかった。著者名に「星野源」と書いてあるけど「どうせ星野源へのインタビューを他の人が書き起こした本だろ。」と表紙だけ見て勝手に判断していた。
星野源のこと好きになった理由
昨年の頭に友達の結婚式の二次会幹事を頼まれた。BGMに何使おうか考えているときに新婦が星野源さんが好きだと聞いたからとりあえず一番新しいYELLOW DANCERというアルバムをTSUTAYAで借りて聞いてみた。
「なにこれめっちゃええやん」
一曲目の「時よ」も二曲目の「Week end」も三曲目の「SUN」も良くて踊りだしたくなった。そこで「自分には合わない」という偏見が吹っ飛んで一気に星野源さんの曲が好きになった。
昨年の10月に「恋」がリリースされた時は「逃げ恥」のことを全然知らず、ただただ「星野源、新曲もめっちゃええなー」と思いながらずっと聴いてた。
昨年末にかけての「逃げ恥」と「恋ダンス」の大ブームに乗ってさらにはまった(ミーハーなんです)。逃げ恥はブームに乗り遅れて妻と二人で最終回だけ見た。おもしろかった。なんでおれはリアルタイムでこのドラマを楽しまなかったんだろう...と悔やんだ。
年末の歌番組でキレキレの恋ダンスを踊る星野源さんもかっこよかった。
この本を読んだ理由
年末の逃げ恥ブームがひと段落してから星野源さんの肩書きに「文筆家」とあるのを知った。そこで「え、じゃああの『働く男』も自分で書いた本だったのか!」と気づいてついに本屋でこの本を手に取った。
星野源「働く男」とは
星野源さんの肩書きである文筆家・音楽家・俳優の仕事を一冊にまとめた本。
- 書く男
- 歌う男
- 演じる男
とそれぞれの仕事毎に章が分かれている。
2013年発刊された単行本が2015年に文庫化された。
もともとは雑誌「POPEYE」に連載していた星野源のエッセイ「ひざの上の映画館」を一冊にまとめた本にする予定だったがそれだけでは分量が足らず、ついでに星野源の仕事の様々な側面を一気に見られるようにまとめた。
タイトルはユニコーンの名曲「働く男」からの引用。
単行本初版の帯には「どれだけ忙しくても、働いていたい。ハードすぎて過労死しようが、僕には関係ありません。」という文言が書かれていた。
星野源はこの本を入稿後、倒れた。脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血。
文庫版には入院後の「働くこと」への心境の変化も追記されている。
星野源 「働く男」の感想・レビュー
前置きがめっちゃ長くなりましたがこの本がすごくよかったので感想を書きます。
書く男
このエッセイ「ひざの上の映画館」がこの本の肝です。この星野源さんの文章が自分の好みのど真ん中だった。
映画のレビューなんだけどその中に、書き手の日常や、日々の思考が詰まっている。ときに自虐的で、ときにクスッと笑わせてくれて、ときに小さく胸を焦がすような、そんな文章。
そしてその文章が自然に映画のレビューに繋がっていて、紹介された映画がめっちゃ観たくなるという。文章うますぎるやん。
ここに星野源さんが書いて文芸誌に掲載された短編小説「急須」も載っている。このお話がほっこりするしとてもいい味出してる。この作家さんの小説もっと読みたいって思うもん。文章うますぎるやん。
歌う男
星野源さんが結成したバンドSAKEROCK(2015年解散)時代からソロになってリリースしたCD達を振り返る。
このセルフレビューを読むと、聴いたことのある曲については「こんな思いがあったのか」ということが知れてまた聴き直したくなるし、知らなかった曲についても「こんな曲があるのか」と思って聴いてみたくなる。
星野源の過去曲はもちろん、特にSAKEROCKの曲が気になって仕方がなくなる。
「適当に歌ってみよう」のコーナーでは過去曲の歌詞が印刷された紙に自筆で鉛筆でコード進行やアドバイスが書き込まれている。そこに添えられているイラストがまたゆるくてほっこり。
演じる男
星野源さんの今までの主な出演作品が印刷された年表にこれも自筆で鉛筆でそのときあった出来事などが書き込まれている。「このとき2回目の風俗に行った」とかも書き込まれていて「どんだけ自分さらけ出すねん」っていうぐらいさらけ出していて笑う。
「ウォーターボーイズ」とか「タイガー&ドラゴン」とか「ゲゲゲの女房」とか自分が普通に見ていたような有名作品にもちょくちょく出ていて「え!どこに出てたの!?」ってびっくりする。
俺を支える55の○○
星野源さんの人生を支える55のヒト、モノ、作品などが載っている。どれもそのものに対する熱い想いが書かれているのに、その中にサカナクションの山口一郎さんが「友達。」とだけ書かれていて、なんかほっこりした。
星野源×又吉直樹「働く男」同士対談
星野源さんのことを好きな人はもれなく又吉直樹さんのことも好きな気がするのでこれはとても良い対談。この対談が読みたくてこの本を買ったと言っても過言ではない。
別の仕事の傍らで文章を書く仕事をしていて、年齢も同じぐらいなので見るからに気が合いそうな2人。
自分の肩書きをどう書くかについて困ったことや、自分たちの求める笑いや、昔は人見知りだったことなど共通点も多くて実際に気が合っていて読んでいる方も楽しくなってくる。
又吉さんの語っている内容も「火花」や「夜を乗り越える」との繋がりが感じられておもしろかった。
一つの仕事に縛らずに活躍する2人。本当にかっこいいし尊敬する。2人ともこれからさらに活躍することになりそうだし全力で応援したい。
まとめ:星野源になりたい人生だった
星野源さん。僕が人生でやりたかったこと全部やってる。
音楽、聴くのは好きだけどできることなら歌って踊って演奏して曲だって作りたかった。
俳優、こんなこと妻ぐらいにしか言ったことないけど俳優をやってみたかった。人前に出るのは恥ずかしいくせに小学校の学芸会では毎年主役をやりたがった。役として人前に出ると恥ずかしくなかった。
そして文筆家、星野源さんみたいに雑誌の片隅にエッセイを書いたりなんかしながら暮らしたかった。こんなほっこりするぐっとくる文章を書きたかった。
星野源さんはそれを全部やっていた。羨ましすぎる。嫉妬。
だけど星野源さんも、もとから才能があったわけではないらしい。「星野くんに文章の才能はないと思うよ」と言われながらも、誰にも見せないエッセイや小説を書きまくり、知り合いのライターさんを通じて、編集さんを紹介してもらい、頼み込んで文章の仕事をもらうようになったそうだ。
才能があるからやるのではなく、才能がないからやる、という選択肢があってもいいじゃないか。
そう思います。
いつか、才能のないものが、面白いものを作り出せたら、そうなったら、才能のない、俺の勝ちだ。
才能がないからやらないんじゃなくて、やりたいからやる。とにかく手を動かして、体を動かして、行動してみる。そうすれば誰だって星野源になれるのかもしれない。
この本を読んだ後、星野源さんのアルバムを何周も聴いている。歌の歌詞の中にもこの本と同じ匂いが見つかって楽しい。
↑ 「働く男」より前に出したエッセイ集。次はこれも読みたい。
↑ 一番新しいエッセイ集。闘病生活、完全復活まで。
この記事もおすすめ
↑ 「星野源めっちゃ稼ぐやん」というお話。
↑ 星野源さんのエッセイを読んでエッセイを書きたくなったというエッセイ。
↑ 今年の年賀状は星野源風にしたという話。
↑ 又吉さんの「火花」を読んだときの感想。