この世で一番退屈な時間って車の渋滞待ちかもしれない。この世で一番ハッピーな時間ってミュージカルを見ている時間かもしれない。
一番退屈な時間を一番ハッピーな時間に変えてくれる冒頭シーンがもう「これは間違いない」って教えてくれる。
※以下、鑑賞に差し支えのあるネタバレはしない程度に書きます
ラ・ラ・ランドの感想・評価・レビュー
ああこんな退屈な日常抜け出したい。バンド組んで売れてツアーとか回りたい。映画スターになって売れて会場満席にしたい。とか考えたことある?僕はある(恥ずかしげもなく)。
ララランドはそんな”厄介な夢追い人”が主人公の物語だ。女優を目指すミアとジャズピアニストのセバスチャンが恋に落ちるまでとその後を描く。
色とりどりの衣装が、色とりどりの景色が、色とりどりの歌がダンスが演奏が、耳も目も頭も満たしたくれる。これで
「ああもう完璧!」
とはならない。この映画、「不完全」なのだ。そしてこの「不完全」こそがこの映画の魅力だって叫びたい。
最新カメラで完璧綺麗な映像を撮れるこの時代だけどフィルムで撮影された映像はレトロ。主演の2人の歌もダンスも完璧に上手いわけじゃない。完璧なタイミングでキスしようとすると電話が鳴るし、2人で見る景色は”全然ロマンチックじゃない”。
不完全な気持ちで恋人の成功を祈り、不完全な”コレジャナイ感”のままバンドを続ける。完璧に上手くはいかない生活。
現実っていつもそうだ。人生っていつも不完全だもん。
だけどミアとセブが踊るあの印象的な背景は”マジックアワー”つまり不完全(な夜)が作り出した賜物だ。ああ人生って不完全だからこんなにも美しい!
この映画を最後まで見たら、アカデミー賞での読み間違えのハプニングさえララランドの演出の一部だったんじゃないかと思えてくる。
不完全を愛する監督だからこそ「敬愛すべきムーンライト陣営にこの手でオスカーを渡したいんだ」ってあんな機転のきいた対応ができたんじゃないだろうか。
映画後半でミアが”厄介な夢追い人”の歌を歌うシーンで一番心が持っていかれた。夢を追う人、夢を追うのを辞めた人、皆に見てほしい。芸能界の人たちが軒並み高評価なコメント出しているのはやっぱりみんな夢追い人だからなんだろう。刺さるのだ。
この映画はなぜか妻と二人で見に行かないといけない使命感に駆られて、久しぶりに夫婦で映画館に行った。
この使命感の正体はなんだろうと気になっていたんだけど、大好きな椎名林檎さんのコメントを読み直すとその謎が解けた。
よくばりなわたしたちの人生には必要なものばかり。どれを失ってもこまるのにだれも約束してくれない。いちばんたいせつなひとと一緒に観るべき映画です。
林檎さんに動かされていたのか。
映画を見終わった後、二人で映画のシーンをあれこれ語りながら、この道路も映画のワンシーンで使えそうだなとか、そんなことを考えながら歩いた。
運転しながら帰る車の窓から見えた月が、完璧な満月だったから
「月が綺麗ですね。あいらぶゆ〜」
と言ってみたら
「なにそれ?」
と返されて夏目漱石の話を一から説明する羽目になった。
ああやっぱ現実って不完全だ。
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